怨念さえも凌駕する狂気 『サユリ』 2巻

サユリ 2 (バーズコミックス)

サユリ 2 (バーズコミックス)

念願のマイホーム生活で幸せな生活が訪れると思っていた。
それも束の間、そこに棲む悪霊サユリによってみんな死に、消えてしまった。

一人残され絶望の淵に立たされた則雄だったが、
引っ越してくる前からボケていた筈の祖母が正気を取り戻し・・・

正体もわからず、姿も確認できないが、確かにそこにいる。
抵抗することすら適わずわけのわからないままに一人ずつ命を落としてゆく。
和製ホラーの持つ恐怖スペックを余すところなく発揮してくれた本作ですが、
やられっ放しの前回とはうって変わって反撃に転じる怒涛の展開が目白押しで、
最早怖いの定義すら曖昧になってしまうほどでした。

特に終盤からの狂いっぷりは半端ではなく、
ミスミソウにツバキにと人間の狂気を描いてきた押切氏らしいヤバさです。

笑ってしまうくらいに狂ってた。
実際笑ってしまった。
もう笑うしかなかった
本作も霊的なものの恐怖から人間そのものの恐怖へと遷移していきますしね。
何はともあれ恐怖の中にも哀しさと情愛とが入り混じった完結編でした。
色んな意味で本作そのものがトラウマになりそうではあるけど・・・
今回全般的に出てきた『心の強さ』。
生きる上で大切なことを一つ教わりました。
ファミコン的視点から見るとスウィートホームを思い出さずにはいられませんでしたがね。
あれもコマンドとして、攻略要素として、心の力が重要でしたからね。


唯一の救いと言えば、主人公まで全員死んだミスミソウと違って、
全ての決着が付いた綺麗な形で終わったことでしょうか。
これで則雄まで死んだなんて終わり方だったら救い様がなさすぎるし。
ぃゃ、家族五人失ってる時点で既に救い様がないとも言えますが。
あとヒロイン的存在の住田さんが可愛かった。

氏の作品のヒロイン格って他のキャラとのビジュアルが全然違う分、
異様なまでに引き立って見えるんだよなぁ。


幸せな家庭を崩壊へと導いた怨念の元凶とは・・・

本作タイトルでもありながら、前回は一度もその名前が出てくることのなかった『サユリ』。
生前の名前が『小百合』であることや生活ぶり、怨念を持つに至った死因とが判明し、
彼女もまたある意味被害者であったのかなと。

家族の手に掛かったこと、死を隠蔽されて庭に埋められたこと、
埋められたまま家族に見捨てられたこと、
自分が殺された家で他人の家族が幸せに生活するのを見なければならなかったこと、
結果的に怨念を抱くに至ってしまったわけだけれども、
個々の事象を見てみると実は相当に哀れです。
だからなのか、祖母の報復を受けて家族の情を思い出した小百合の姿に正直泣きました。

と言うか引き篭もりだったんかぃ・・・
生前の小百合を見ていると、ホラー作品って枠を隠れ蓑にしているけれど、
何気に社会的な問題にも言及しているとも言えますね。
奇しくも今年は大卒の就職率が過去最悪レベルであり、
それもあって引き篭もりやニートがまた増えるのかと考えるとね・・・
小百合の一家のように道を誤る家族が出ませんことを。


怨霊の正体である小百合も怖いですが、
一番怖いのは、ある意味一人で全てを終わらせてしまった恐るべき狂人である祖母。
兎にも角にも今回最初から最後まで完全にババア無双状態だし・・・
本作に限らず押切作品全般的に、ババアキャラの戦闘力高すぎ。
ここまでぶっ飛んだババアを描く人なんて他には画太郎氏くらいしか思い当たりません。
悪霊モードの小百合を目の当たりにしても動じる様子は全くなくて、
逆に小娘呼ばわりしながら則雄に講釈する姿はまさに鬼婆。

家族を皆殺しにされた仇討ちとしての言動で家族思いな一面もあるものの、
それを差し引いてもまともな人間の神経してないです。
と言うかこれが正気ってそれこそ正気かと。
さすがに霊をダイレクトにぶん殴ることこそしないものの、
むしろそうしてくれた方が有り難かった。
相手が悪霊ともなれば、普通に考えれば祓うとか成仏させるとか、
真っ当な除霊手段を考えるものだけど、
この婆さんが取った手段は文字通りの報復。
自分たちがされたことをそっくりそのまま小百合にやり返すって、
どう考えても悪霊相手の対抗手段じゃないです。
『やり返す』ってのも比喩じゃなくて、
死体を掘り返して身分証明書から生前の小百合の家族の所在を割り出し、
拉致監禁した後に拷問にかけると言う・・・

その拷問シーンがまたヤバすぎ。
ゆうやみの煉獄みたいに現実離れしすぎてるなら非現実として割り切れるけど、
一本ずつ指を折る、バットで殴打、錐で突き刺す。
リアルすぎて見てて痛いです。
この家族が小百合にしたことを考えれば因果応報なのかもしれないけど・・・
悪霊の怨念すらをも凌駕するほどの圧倒的な殺意と狂気。
人間って怖いわ。