四畳半人型猫奇憚 『ねこのこはな』 1巻

ねこのこはな 1 (モーニング KC)

ねこのこはな 1 (モーニング KC)

一般的な生活水準からはやや劣る貧乏生活を送る若手SF小説家・あっちゃん。
執筆活動に勤しむべく飼い猫のこはなと一緒に引越し先で新生活を始めるのだが・・・
本作を大まかにジャンル分けすると、
日常系にペットものをベースとして、
更にプラスアルファした要素で構成されていて、
これだけの説明では特に珍しいものでもなかったりします。
が、何故如何にして本作がこの上ないほどの中毒性を持っているのか。
それはタイトルにもなっているこはなを見れば一目瞭然です。
さあ、それでは読者の心を掴んで離さない、
こはなのお姿をご覧いただきましょう。

・・・
・・・・・・!?
何このクッソ可愛い素敵生物!?
そう、本作の構成要素として非常に重要なウェイトを占めるプラスアルファの要素、
それこそが擬人化です。
こはなだけが特別な存在と言うわけではなく、
作中の世界観そのものが猫が人型で二足歩行して人語を話しており、
あっちゃんの職業と相まって日常系なのにSFとしての一面を備える高度な設定は、
猫好きのみならずとも、可愛いもの好きや子供好きの心を掴んで離しません。
ぃゃ本当に日を重ねるにつれて愛しさが二次関数的に跳ね上がってしまっていて、
一日一回は通しで読んだりするのは当然のこと、
気が付くと同じように陥落(おち)た人が居ないかとか、
二次で描いた人がいないか画像検索してしまっていたりとか、
日課となるレベルにまで思考が侵食されている自分がいます。
1巻が出たばかりで非常に気が早いのはわかっているのを承知で言いますと、
是非とも続刊が出たときは1/1サイズのぬいぐるみ付き特装版をお願いします。
マジで切実なレベルで。
実例として同じ猫もの作品でポヨポヨ観察日記が何度か本当に出してますし、
多数の要望が集まれば決して不可能なことじゃないと思うんだ。
一日中ずっと抱いていられたら幸せだろうなぁ・・・

  • 食欲第一、小憎たらしくもなるくらいに愛らしい

何と言ってもこはなですよ。
猫耳キャラだの、それっぽく振舞う似非猫キャラだの、
人型だけど言葉が通じない半獣キャラだの、
一言で猫キャラと言っても様々な定義があります。
そんな中でもこはなは見た目は猫耳幼女で言葉も話せる、
でも根本的な思考や行動はまさしく猫そのものと、
擬人化としての面と獣キャラとしての面とをいいとこどりした配合タイプ。
これで可愛くないわけがありませんって。
仮にただ猫耳が付いただけの幼女キャラだったりしたら、
ここまで強烈に思い入れすることも無かったんだろうなぁ・・・
思い返してみれば昔からこういうタイプには弱かったわ自分。
見た目がセーラー服ってのもポイント高いですよ。
本当に服なのか、毛なのかは神のみぞ知る。
現実の猫だとしたら白と黒のぶちだよね。
※イメージ図

そしてこの見た目もさることながら、
心を掴んで離さないほどのキャッチーさたる所以がその性格。
イメージを壊さないですます口調である一方で、
口を開くと一にごはん、二にごはん、三四が無くて五にごはんと、
基本食べることしか考えてません。
発言の内容も9割がたはあれが食べたいこれが食べたいといったもの。
あっちゃんのことは好きだけれども、
決して従順なわけではなくて常に自分のごはんが第一。

一話目の第一声からしておやつをせがんできてるし、
お前は食べる以外に無いのかよ!
思わずそうツッコみたくなってしまうほど清々しいまでのぶれの無さは、
ちょっぴり憎たらしくもあり、憎さあまって可愛さ100倍。
悪いことと知らずに泥棒行為をして怒られて、
自分の餌を盗られた場合を例にされたときの狼狽ぶりは、
ちょっと好きな子をいじめたい小学生的な嗜虐心を煽られてちょっとゾクゾクしましたね。

ごはんおあずけで半泣き寸前のところで解禁して喜ばせたりとか、
時と場合によって飴と鞭を使い分けながらじゃれ合いたい・・・

  • 猫ゆえの行動×2.5頭身=可愛さ∞

引越し直後だから空っぽなのはわかりきってるのに真っ先に冷蔵庫を開けたりと、
口を開かずともやっぱり食べることしか考えてないのは言わずもがな。
ものの考えがまさしく猫そのものであると同時に、
その場その場で毎回異なる一貫しない行動の数々も、
まさしく本能の赴くまま行動する猫そのものであると共に、
愛らしさをこの上ないほどのレベルにまで増幅させてくれています。
初対面の相手にビクビクしてあっちゃんの後ろに隠れたり、
話を聞いてるのが暇だからお茶を飲もうとしたら熱くてのた打ち回ったり、
遊び相手が居ないから自分の尻尾を追い回して一人遊びしてみたりと、
じっとしていられない子猫の習性故に常に動き回っているので、
とにかく見ていて飽きません。

全身の行動と同様に常に変化し続ける表情もこれまた然り。
同じ表情が連続している場面を探す方が難しいくらい文字通りの百面相。
ちょろちょろと鬱陶しいくらいが可愛いのです。
寝ているときですら例外ではないからたまりません。
描き下ろしページの寝相図鑑は必見の価値ありですよ。

「生命誕生」「おこしやす」あたりは普通にかわえぇし、
「日食」無重力」なんかはシュールさがいい。
と、非常に様々な動きを見せてくれたりする中において、
特に好きなベスト3が以下の通り。


3位:あんぱんの歌熱唱

部屋の中でお花見して盛り上がる中で桜の歌を歌ってたはずなのに、
いつの間にかあんぱんの歌にすげ変わってしまっている罠。
「このーむねのーとーきーめーきー」なんて歌詞があったりするもんだから、
脳内ではメロディラインが完全に某ときメモのEDになっちゃってます。


2位:溝にハマって涙目

ちょっとしたトラブルで側溝に落ちてしまって身動き取れず、
本人からしたら一大事なのにシュールな光景は何だか和んでしまいます。
でもこんなときでも心配しているのは自分の身の安全よりもごはんのこと。
や っ ぱ り か !


1位:土下座からのでんぐり返し

あっちゃんを怒らせてしまったので謝ろうとして、
管理人さんからの提案で土下座をしようにも、
頭身的に無茶だからでんぐり返しになってしまう。
これが赤ちゃんだったりしたら何とも微笑ましい光景なのですが、
位置関係が悪くて顔面に浴びせ蹴りして更に怒らせてしまうという・・・
できることならこの後に披露したと思われる謝罪の舞も見たかった!
既に本作を何回読み返してるかもわからないのだけれども、
その中でもこの回は他の回の倍くらいは読んでる気がします。
それもこの土下座からのでんぐり返りからの浴びせ蹴りと、
怒られてるときの狼狽ぶりが可愛すぎるんじゃー。

  • ツッコミ?Sっ気?いいえ愛情です

これだけ気ままで可愛いこはなの飼い主であるという、
非常に羨ましい立場であるあっちゃん。
こはなの言動に対して常に的確に鋭いツッコミを入れ、
甘やかさずに厳しくしようとしても、
しょんぼりしたこはなの様子に負けてしまって、
結局最後は甘くしてしまう。
飼い主ってそういうもんですよねー。
焦らしプレイのようにも見える一連のくだりのおかげで、
色んな表情が見られてたまりませぬ。
こはなもそんなあっちゃんのことが大好きで、
決して裕福な暮らしでもないしごはんはカリカリばっかりだけど、
現在より高待遇を提案されても今を選ぶあたりなどは、
熟年夫婦ばりに長年連れ添ってきた間柄だからこそ生まれる絆のようなものが垣間見えて、
ペットを飼うのも悪くないなーなんて感じてしまいます。

  • 変人率の高い人間衆

昔ながらの賃貸集合住宅を舞台にした作品ともなれば、
欠かせないのが個性的な住人たち。
今のところは作中一の変人な管理人さん以外との絡みは少ないのだけれども、
もっと他の住人と関わるエピソードなんかも見てみたいですね。
「謎の外人」ことメウメウの従者・クマル(熊)との獣同士とか、
「謎の女王様」のお仕事モードのときがどれだけ激しいんだろうとか、
女王様の娘は普通にいい子だから一緒に遊んで欲しいとか、
想像すると楽しいなー。
今回登場していない「謎のバイヤー」に至っては何者なんだろう・・・

  • 可愛い日常だけではないSFとしての側面

意識しなければ擬人化日常ものとしての認識で終わってしまうところですが、
色々と細かいところを見ていけば見ていくほど、
それこそ作中のちょっとした言動や背景に至るまで、
嗚呼この漫画はSFなんだと実感することができます。
裏表紙の作品説明でも猫とSFにまつわる叙事詩と書いてあることですし。
わかりやすいところではエピソードごとのサブタイトルは、
全てSF小説のタイトルが元ネタになってたりしますし、
他にもあっちゃんの愛読書は小松左京さよならジュピターで、
表紙にもそれが数冊置かれていたりもします。
そもそも本作も根本的な設定はSFそのものですし、
二足歩行で喋る以外にも現実では考えられない点もあったりするんですねこれが。
お菓子屋さんでは猫専用クッキーが売ってたりするし、
アパートの住人には熊と同居してる人もいるし、
あまつさえ次巻予告じゃこはながロボになってたりもする。
そんな中でも一番気になったのは、
あっちゃんの思考にマッチしすぎた管理人さんのコスプレ姿。
メイドロボを題材に小説を書こうとして都合よくそのコスプレをしてるとか
(しかも某まほろさんと某マルチの合わせ技)、
そういうところを見ると実は全てあっちゃんが書いた作品の中の話なんじゃないかと、
メタ的な推測すら浮かんでしまうレベルです。
こうして考えるとけっこう定義の幅って広いですね。SF。

  • 時として禁断の領域とわかりつつも真理を求めてしまうこともある

と、一度は筆を折ったことを暗に自覚していた身にありながら、
実に四ヶ月ぶりにこれだけの想いをぶつけたくなった本作に出会えたことは、
とても嬉しいことであり、こういう出会いがあるからやめられないんだと、
改めて実感させていただいた所存であります。
燃え上がった気持ちの全てぶつけるにはこれだけでは物足りないと思いつつ、
ひとまずはこのあたりで締めくくりたいところではありますが、
愛らしいがためにどうしても気になってしまうことが一つ。
この世界の猫にも発情期はあるのでしょうか?
人間だったら三歳児くらいに見える2.5頭身サイズのミニマムさや、
二足歩行で人語を話す猫が一般的である世界においても、
世間の常識に疎いところなど、
実年齢も見た目のそれの通りで普通に子猫なんだろうなーとは思いますが、
ちょっぴり見てみたいと思ってしまうゲスい疑問。
ぃゃ、幾ら何でもこはなに対しては愛玩的な感情だけであって、
性的なそれは抱いてませんよ?
さすがにそれは犯罪だし。
でもそういうのが好きな人が二次創作で描いてしまう可能性なら微レ存・・・

あ、はい。