幸せになるはずだった家族を襲う最悪の怨念 『サユリ』 1巻

サユリ 1 (バーズコミックス)

サユリ 1 (バーズコミックス)

築40年、念願の一戸建てマイホームを購入した神木家。
家族7人、三世代で幸せな生活が約束されていたはずだった。

が、引越しから間もなく訪れた父親の死は、全ての始まりに過ぎなかった・・・
最近ではミスミソウや椿鬼のように
救いようのない絶望感に畏怖する本格ホラーを数多く輩出している押切氏の作品ですが、
また危険すぎるほどのとんでもない代物が出てきました。
同氏の作品の中では特に好きだったミスミソウとかも怖いことに変わりはないけれど、
どちらかと言うと哀しさが大きくてむしろ切なくなったのですが、
今回はとにかく怖いの一言に尽きます。
後述する一部シーンにおいては本気で寒気がしましたし。
何かがいる、でも正体はわからない。
そんな悪霊に一人、また一人と殺されてゆく様子はまさに和製ホラー映画の世界。
このまま映画化とかしてしまってもおかしくないです。
ギャグにバトルにエッセイにと幅広い押切作品の中において、
本分であるホラー作家としての本気を垣間見ました。
もう中古物件とか絶対手ぇ出せないわー。


ただその家に移り住んできただけ、それの何がいけなかったのか。

ごく普通の家族がいわれもない怨念によって殺されてゆくのはホラーの常套句だけど、
ここまであまりにも一方的で為す術もなくされるがままの展開には絶望感しかありません。
7人家族だったのに、読み終わってみれば2人しか残っていないなんて・・・

一度読んだ後だと表紙がまた切なく思えてきます。
並べられた幸せな家族の写真、それを崩壊させるかのように顔を覗かせる悪霊の姿。
家庭崩壊の図ってどうしても自分のところに置き換えて見てしまったりしてしまうから、
どんな作品で何度見ても気持ちのいいものじゃないなぁ。
帯下記をもってしても『最恐』『悪意』『トラウマ』の単語が込められていて、
正統派ホラーとして如何に気合が入っているかがわかると言うもの。
ラストでようやくその姿を現した悪霊こそが
本作タイトルでもある『サユリ』と思われますが、

この家でかつて何があったのか、怨念の根源は何なのか、
それを追求して怨念を取り払う展開となるのか、
それともこのまま何もできないまま全員殺されてしまうのか。
次巻で完結らしいですが、一体どんな結末を迎えるのでしょうか。
早い段階から何かに気付いていたらしい祖父や
霊感のある元クラスメイトの住田さんが揃って気にかけていたテレビが何かのキーになるのかな。
ただ、どう考えてもバッドエンド的なものしか想像できませんが・・・


ストーリーの絶望感を際立たせる徹底したホラー描写の数々。
今までの作品の中でもえげつないシーンや描写は時折出てきていたけど、
本作は映画を見ているかのように最初はそれほどではないものの、
徐々に、確実に密度を増してゆく恐れと不安。
そして後半に一気に押し寄せてくる恐怖。
蓄積してゆく5話目までと、直接的な描写の出てくる6話目と7話目の移り変わりが凄まじく、
特に6話目の悪霊に連れ去られてしまって途中で姿を消した弟が
暗闇の中見開きで挙げるこの世のものとは思えぬ悲鳴と続けざまに兄に助けを求める姿は
言葉で例えようのない様々なものが入り混じっていて
本気で戦慄を覚えて寒気がしました。

同氏の作品であるゆうやみ特攻隊の中で出てきた煉獄部屋が
更に禍々しくもえげつないものになったとでも言いましょうか。
ホラー耐性ない人には相当きっついです。
早い段階から憑かれていた姉も次第に気が狂ってゆき、
何かに操られるように家族を殺そうとしたり最終的には舌を噛み切り・・・

恐らく最初に死んだ父も魂は救われることなく弟のように囚われ続けているのかもしれません。
と、後半になるにつれて相当にきっついシーンのオンパレードとなりますが、
それにも負けない覚悟があるのであれば是非とも読んでもらいたいところですね。