その部屋は恋愛行の禅寺だった!? 『煩悩寺』 1巻

煩悩寺 1 (MFコミックス フラッパーシリーズ)

煩悩寺 1 (MFコミックス フラッパーシリーズ)

5年間彼氏と同棲生活を送るものの、結婚には至らず破局を迎えた小沢さん。
ヤケ酒した挙句のハプニングでトイレを貸して欲しいと駆け込んだ部屋は、
珍品コレクションが大量に収納されている奇妙な空間だった・・・

こそばゆい大人の恋愛に定評のある秋★枝氏が新たに送るのは、
異質な雰囲気を漂わせるマンションの一室を舞台とした、
色々な意味で胸ときめく一風変わった大人のラブコメでした。
氏の作品全般に言えることではあるけれど、
仕事に生きる女性の心理描写ってものが半端じゃありません。
ぃゃとにかく恋愛沙汰に年齢など関係ない、
若者だけの特権などではないとちょっと希望も持てますね。
かく言う自分は既に十の位が3の大台に乗ってしまっている身だけれども、
本気で恋愛したければ今からでも遅くない、
ちょっとしたきっかけさえあればこんなワンダーランドが待ち受けている可能性もあるんだと
ひたすらにこそばゆさに悶えながらも考えてしまいます。

本作を読んだ自分自身がむしろ煩悩を抱えてしまっていた、
そんな悶え転げまわりそうなこそばゆさ満載です。


本作の主な舞台となるとあるマンションの一室、通称『煩悩寺』。
その名前をはじめて聞いたとき某豪血寺一族を思い出したものですが、
(ステージBGMがレッツゴー陰陽師で御馴染みの珍念ステージ名がかつてそういう名前だった覚えが)
この部屋の魅力は言葉だけで語れるものではありません。
それは異世界であり、夢が詰まっており、そして何よりも妙。
色々な意味でこの部屋では常識ってものが通じません。
例えば裏表紙。
大の大人数人で卓を取り囲んで牌を切っている図が描かれているものの、
ここで打っているのは麻雀ではなくてドンジャラ
本編でもこの部屋に泊り込むことになって、
いざ寝ようと思ってベッド代わりに出されたのが棺桶。

自分の部屋もある種偏った意味ではこんな風に見られてもおかしくない内装ですが、
さすがにここまでカオスな作りじゃないです。
そういう意味でも何か憧れてしまうなぁ。
これだけカオスな代物を大量に送りつけてきている小山田の兄貴のセンスには嫉妬します。


成人しており、社会に生きる人間たちだからこそ為しえるその描写。
既に遠い日の出来事である学生時代とは違って、
比較的社会人である身に近しいこともあって
感情の思い入れってものがより一層高まります。
リアルタイムでかなり忙しい状況の毎日を送っている身としては、
小沢さんが仕事で日々感じているストレスについてはすごく同意できますし。
週明けの憂鬱さ、後輩との接し方、上司からの断り難い仕事の振り。

全部現在進行形で感じていることじゃないか。
ぅーむ、そういう意味でも思い入れがすごいです。
20代後半のキャリアウーマン、ありです。
そして大人だからこそ許されるもう一つの要素、それが飲酒と喫煙。
2〜3話に一度は酒を飲んでる場面が出てきますし、酒の種類も実に多種多様。
中扉でまで乾杯しているほどの徹底ぶりで、
大人の恋愛を描くためのキーアイテムの一つとして上手く使ってるなーと。

こんな大人たちが紡ぎ出す恋愛事情ってものがこれまた不器用極まりなくてですね。
告白するタイミングを間違えて台詞がかぶってしまう間の悪さとか、
変なところでリアルだったりするのがまたたまりません。

次第に両思いになった末の告白で付き合うこととなったこの二人が、
これから先一体どのような物語を紡ぎ出してゆくのか気になりますね。