たまらなく好きだから好き 『好き もよい』

好き もよい (CR COMICS DX)

好き もよい (CR COMICS DX)

世の中に広がる数多の人間関係。
その中でも好きという感情は特別な想いで溢れていて・・・
独特の世界観と時折入る毒のある人間性とを交え、
非常に中毒性のある作品を輩出する双見酔氏によるオムニバス。
恋愛を中心とした「好き」の感情を細かに描いた本作は、
こうも易々と我々の心に入り込んできてコア部分を掴んで離しません。

展開に激しい起伏があったりするわけでもなく、
極めて自然に進行してゆくのに、
気が付くと核心へと到達している流れが非常にスムーズ。
時間や想いの移り変わりという動的なものを、
漫画という静的なもので描いた世界観は凄まじい中毒性があります。
恐らく本作で語られる内容を全て一言に集約してしまうと、
リア充爆発しろ」の一言に尽きると思うんです。
が、そう思う、思わせることすらしないほどに視線がクリアで、
その場に居合わせているかのような第三者感が素晴らしい。
個人の心理は他の誰かが理解することのできない主観的なものだけど、
それを極めて横から眺めた客観性があるからこうもハマれるのかな。
特有の世界観に改めて魅了される本作なのでした。

そういえば双見酔氏といえば某伺か
二代目デフォルトゴーストの双葉なんかも描かれてましたね。
同じ髪型をしたキャラなどを見ていて何となく懐かしくなったりもしました。


きっかけは些細な出来事、されど膨れ上がった気持ちは大きく。
それが日課のように通っていた神社への参拝だったり、
気持ちが全くこもっていないと自覚するほどに薄っぺらい告白だったり、
何となく付き合うようになったから観察してみることはら始めたり、
ネトゲ上での気になる言動だったりと形は様々。
恋愛ごとに関しても世の中は小さなことの積み重ねからできています。
本当にスルーしようと思えばスルーしてしまうような小さな出来事ばかりなんですよね。
中には一目惚れとか一気に燃え上がる激情タイプの恋愛もあることでしょう。
しかし現実は大抵が突発的ではない地味な繰り返しによる結果なのですよ。
少しずつ好感度を上げていくうちに変化が見られるようになってーとね。

特にメインタイトルとしても使用されているエピソードは、
長さも相まって徐々に大きくなる気持ちの変化が見ていて楽しい。
しかも発端がネトゲって時点からしても、
かつてROアンソロで色々なエピソードで描かれてましたなーって懐かしさもあり、
感じる思いはひとしおです。

ROにしてもブラウザゲーにしても最近は発言もしない
黙々としたプレイに終始してる身としても何かと思うところはありますよ。
以前は普通に交流とかもしてたはずなのに、
気付けばそうしたものの全てが煩わしく思うようになってたな・・・
こういう恋愛事情を期待するわけではないにせよ、
チャット機能でたまには発言とかしてみようかななんて考えたりなんかもしますね。


私は、あの人が好き、友達が好き、同人活動が好き、暇潰しが好き。
様々な好きの形を体現した本作ですから、
恋愛事情以外の点においてもかなり独特の雰囲気が出ています。
何しろ一番最初のエピソードからし同人活動の話ですからね。
画力もゼロから始めてイベントデビューしてとわかりやすい展開に、
業界の黒い部分とかメタな描写も多々盛り込まれていて、
かなりの真骨頂っぷりを発揮していたりする中で、
きっちりと本作テーマにおける「好き」を体現しているのが侮れません。

恋愛と言うよりは友情とか百合な話ではあるものの、
こういう「好き」って形もあるんですよと。
友人の作品が好きで活動を始め、
友人の方はそんな親友が好きだったから描いていた。
いいなーこういう関係って。

しかし他のエピソードとも併せて最強だったのが「母親」です。
若い頃には同人活動をしていたってのは良しとしましょうか。
兎に角エリート教育の鬼教官っぷりが半端じゃない。
リアルの学業を疎かにしてでも絵の練習をしろだの、
駆け出しの素人が描いた絵なんかコピー本ですら勿体無いだの、
強制イベント参加で娘にコスプレで売り子をさせ、
マナーの悪い参加者をシメてパシリに仕立て上げた挙句に「青封筒」まで確保と、
ある意味この母親無双っぷりこそ本エピソードの本領発揮なんじゃなかろうかとね。

親が理解あるとしてもここまでアレだと逆にノーサンキューすぎる・・・
見ている分には楽しくてたまらないですがね。
修羅場を知る同人業界の老兵最強すぎるわ。