これぞ魔王、これぞ絶望 『お気の毒ですが、冒険の書は魔王のモノになりました。』 1巻

魔界を治め、怠惰なる日々を過ごす魔王・ヴェルモート。
満たされど満たされぬ己の欲望のため、人間界征服へと乗り出し・・・

現在アニメではまおゆうが放送中だったり、
漫画でも明日の今日子さんが連載されていたりするように、
決して少なくない魔王を中心とした物語。
が、その多くは日常的なものだったりギャグだったりと、
時代と共に世の中に順応してゆく姿が描かれるものが大半。
そんな中で主人公であると同時に紛れもなく悪の象徴であり、
畏怖すべきであり倒すべき世界の敵という、
魔王らしい魔王の進撃を描く本作。
ありがちな他の国が滅ぼされたとか報告を受ける程度ではなく、
侵略された当事者の国が陥る絶望がこれでもかという勢いです。
ドラクエで言うなればムーンブルクの王女視点に近いものがあるかも。
一方的な虐殺が繰り広げられ、容赦なく人が死んでいく様子は、
ファンタジーの世界とはかくあるものとある種の現実を突きつけてくれます。
とにかく描写がエグい本作ですが、
それもそのはず、原案がバーぴぃ先生じゃありませんか。
逆にそれを知ってから読むといかにもな感じですね。
多分にエロス要素も含まれてるのも納得だ。

この先人間は魔王に屈することになるのか、
それとも勇者が現れて討伐されるのか。
そしてサラさんは魔王に股を開くのか。
どちらにせよまともな展開になるとは到底思えない今後が楽しみですね。


無血開城などありえず、勇者が現れるまで人は手を出さぬわけでもなく。
本作でとにかく容赦ないのが、老若男女問わず人が死にまくること。
ほんの数ページ前まで何事もない平和な国が、
侵攻が実行に移された途端に侍女たちが串刺しときたもんだ。
ぁーそうだよね、表紙の装丁がファミコンソフトっぽいんだけども、
当時のゲームって何気にテキストとか展開がエグいの多かったもんね。
ゲームではよくあったりするし、
平然とテキストで書かれているくらいで何とも感じたりしないシーンも、
こうしてリアルに描かれると相当なインパクトがありますよ。
一応ヒロインの一人となる姫だけは生かしておいてもらってても、
メインヒロインのサラさんと違って完全なペット扱い。

囚われてからは基本裸で犬畜生以下の扱いをされて、
最後の方では完全に精神が壊れて人間として考えることやめちゃってます。
あまつさえ魔王を倒して救出しようと乗り込んできた黒騎士一行まで・・・

人間側に全く救いがなくて絶望するを通り越して笑うしかありませんわ。
嗚呼あれだ、城の至る所にトラップを仕掛けて侵入者を排除って、
影牢を彷彿とさせますね。
RPGで「勇者」が現れるまで人間側は何をしてるかって、
きっとこんな風に無謀に挑む者が乗り込んでは返り討ちに遭ってるんだろうなぁ・・・
本作ではその「勇者」も現れてないことですし。


他種族など取るにも足らず、我に蹂躙されるためだけに存在する。
本作における主人公は魔王です。
しかも一言で外道と言い切れるほどの外道。
それに確固たる意志のない、ただの自己満足で侵略に踏み切るのもまた、
色んな意味で生々しいものがあります。
こういう侵略者って、おおよそ二種類に分けられると思うんですよ。
目的とポリシー、自分なりの美学を持ち、
必要に迫られた末に侵攻を選んだタイプと、
そんなものはない、ただ侵略したいからするタイプとに。
ヴェルモートは間違いなく後者で、
人間からすれば道楽に付き合わされて理不尽に殺されたりとたまったもんじゃない。
世の独裁者とかも大体はこんな風に乗り出し、戦争してきたんでしょうね。
普通ならここまで外道なキャラともなると、
全く良い印象なんか持てずに最終的には討伐されてしまえなんて思うもんだけど、
突き抜けすぎてそういう考えすら通り越した何かのように見えてきた。

そして付き従いながらも何かと謎がありそうなサラさんの存在が、
容赦ない魔王に対して良識的な考えを持ってるから、
一層魔王の残忍な様子が際立って見えるというね。
作中で唯一口答えでき、ツッコミで殴ることすらできる立場にあったりするあたりも、
現在の立場に至る経緯に何か隠されてそうではあります。
見た目に既視感を持ってしまいそうになりますが、
釣り目のツインテールでツン気質のキャラは、
バーぴぃ先生にはよくあることなので気にしてはいけません。