待ちガイルな恋は間違える 『ハイスコアガール』 3巻

3年ぶりに日本へと戻ってきた大野さん。
しかして気持ちはすれ違うまま日々は過ぎ、
人間関係は時のゲーム業界のように混沌としてゆく・・・
80年代〜90年代ゲーム史+ラブコメという異色の組み合わせにより、
今年最も注目された作品の一つに名を連ねると共に、
ホラーとギャグを中心とした押切作品としても一皮剥けた本作。
今回は94年〜95年というACでは格ゲー群雄割拠時代が到来し、
コンシューマでもPSにSSと次世代機が立て続けにリリースされた激動期において、
ゲームに恋に勉学にとそれぞれの想いを胸に翻弄される様子が描かれています。

改めて見て思うけど、79年〜80年世代って本当に近代ゲーム史そのものだなと。
物心付いたときにはファミコンがあってSFCを隔てて、
ちょうど高校受験の時期にPS・SSの二極時代が到来して、
ACもスト2から始まった格ゲー全盛に音ゲーの台頭と、
全てを遊び盛りの時期にリアルタイムで見てきてますからね。
自分も同世代だから全てが青春ど真ん中すぎてヤバいです。
恋愛方面に関しては待ちガイルどころか立ち往生状態だったから、
こんな甘くも切ない思い出なんて微塵も存在してませんがね。

すれ違う気持ち、実らぬ想い、将来への不安、
そこにあるのに手を伸ばしても届かないもどかしさ。
思春期の縮図そのままに波乱に満ちた中学生編クライマックスを見たそのとき、
ある意味押切作品らしいとも言えるホラー級の衝撃にせつなさ炸裂すること請け合いです。


見れば見るほど一体どこの自分なんだと思ってしまう追体験
ハルオたちと全く同じ世代の人間だから当然ではあるのだけれども、
修学旅行で京都奈良、しかも行ってる時期が6月ってあたりまで同じともなると、
リンク具合が半端じゃないわけですよ。
作中では触れられてはいないけれども、
94年って平安京遷都1200周年の節目でもあったんですよね。
さすがにハルオたちみたいに途中で新幹線に置いてかれたってことはないですが。
時節柄どうしても格ゲー中心になってしまうものの、
しっかりとマイナーどころを取り上げていたり、
それ以外のジャンルをもカバーしているあたりが細かい。
80年代の代物だけど、功夫老師とか10円ゲームまで出てくるとは思わなんだ。
「これ、そこのあなた、あんたじゃよ、ちょっと試していかんかね?」
は当時何十回聞いたかもわからないわ・・・
そして格ゲーはちょうど全盛期真っ只中なだけあって、
KOF94にヴァンパイアにスパ2Xにと熱いものが多いですね。
超必殺技も隠しコマンドで見て盗むものだったなー。
メジャーどころだけじゃなくて富士山バスターに大江戸ファイト、
パーフェクトソルジャーズのようなマニアックなのもあって、
他を寄せ付けない独特の濃さには今でも笑えますよ。
特に大江戸ファイトの一休(地蔵)のシュールさと
パーフェクトソルジャーズのブロードウェイ(踊る25歳)のクネクネキモい動きは、
本作関係なしに必見の価値ありです。

ゲームそのものとも違う時事ネタも今回は割りと多かった感じ。
豪鬼を出すのに失敗して茶リュウになるとか誰もが一度はやる失敗あり、
若干時系列は異なるけど、
「確かみてみろ」「インド人を右に」「ザンギュラのスーパーウリアッ上」
ゲーメスト誤植ネタもあり、
スト2劇場版の「愛しさと切なさと心強さと」とか、
「同情するから金をくれ!」が流行語にもなったドラマの家なき子のような芸能ネタもあり。

ゲームとかアニメの主題歌を有名アーティストが手掛けることが、
珍しくなくなったのもこのくらいの時期でしたかね。
うん、実にいい時代でした。


自分の知らない世界を見せてくれた。
中三という高校受験を控えつつも思春期真っ只中のこの時期。
己の感情に全く自覚の無いハルオと、
口には出さずとも想いを秘めた大野さんに只今恋愛中な日高さん。
全く噛み合わない三人の気持ちのすれ違いがとにかくもどかしい。
着実に両方相手にフラグを立て続けるハルオの一級フラグ建築士っぷり
ゲーム脳なのに何でこんなにモテるんだと嫉妬を隠し得ませんわ。
全くタイプが異なるけども、大野さんにしても日高さんにしても、
魅かれるに至った理由は共通しているあたりが絶妙ですよね。
三人全員に大いに見せ場があるもんだから、
みんなに感情移入しちゃって三角関係な現状が見ていてつらい。
恋してるのに、その実入り込む余地が全く無い日高さんを見るとなおのこと。
元々ゲームに全く興味が無かったのにスーファミを買ってもらうにまで至ったり、
修学旅行のトラブルで二人デート紀行になったりしたときの様子が、
振り回されてるとわかりながらもときめいていて可愛いんですよ。

SFCファイナルファイトは一人用なのを知らないで、
協力プレイに期待を馳せちゃったりするところの破壊力たるやもう。
普通なら日高さんに落ちるわ。
しかしハルオは大野さんしか見えてないという・・・
三年の時を経て再び実現したガイルvsザンギの対戦カードも何だか切ない。

言わなきゃ伝わらないことって世の中思ってる以上に多いものですよ。
ぃゃ間違いなく好意を持ってるからこそ、
避けるし怒るし、いつかの思い出を大切にしているはずなのに、
今まで喋ったことって一度だけ(しかも嗚咽)だから本心は未だ知れず。
果たして今後喋ることはあるんでしょうかね。
と、今まではゲーム脳のヘタレだったハルオも、
後半は一気に主人公らしい格好よさを見せ初めるもんだから熱い。

ようやく自分の気持ちを自覚して、告白同然の台詞に受験勉強のためにゲーム封印。
人生には何度か己の全てを賭してでも事を為さねばならない時がある。
その結果がどうなったかは要確認として、
次回から始まるであろう高校編は更に人間関係やゲーム事情も変わる時期。
交わらない歪な三角形がどうなってしまうのか、
今から半年後の続刊が気になってなりませんね。