その時、あなたは何を望みますか? 『お手元のフリップにどうぞ』

3分以内に願い事を書けばそれが叶う不思議なフリップ。
人生に3度だけランダムなタイミングで訪れるそれが訪れたとき、
一体何を望むのだろうか・・・

バラエティ番組やクイズ番組でよく使用されるフリップを、
願い事が叶うアイテムとして用いた本作。
普段から金だのなんだの願おうとしていたとしても、
唐突に時間制限付きで願いを求められると意外と何も言えなくなるものです。
実際に願いを叶えたケース、
待ち望んで人生を翻弄されるケース等、形は様々であれども、
いつ訪れるかわからないタイミングという設定によって、
表面上の欲望ではない本当の願いの数々が描かれていて、
単純に富とか名声のような欲にまみれたものではない、
人の暖かい部分が垣間見えることができます。
何か金だのなんだのと欲に支配される自分が恥ずかしくなってきますよ。
ボロは着てても心は錦でありたいものですね。


現実的には起こりえない、されどもささやかなるもの。
作中で叶えられている願いというものは、
確かに奇跡の力に頼らなければ叶えられないものばかり。
そしてそれが欲にまみれた醜悪なものではなくて、
ほんの少しだけ幸せになりたいというレベル。
妹がほしい、友達がほしい。
人間がいざと言うときに求めるものってのは、
物理的なものではなくて本能的なものになるんですね。
何だかんだで人同士の繋がりと温もりを求めたくなるものなのかな。
収録されている三つのエピソードはどれも願いは異なるものの、
結局のところは全て絆に関わることに結びつくわけですよ。
特に三つ目のエピソードはちょっと泣けた。
いつやって来るかわからないフリップに人生を費やしてしまい、
長年連れ添ってきた妻が亡くなったときにはじめて、
前を見てこなかったことの無益さに気付き、
悔いるにはあまりにも年老いてしまったという、
ある意味絶望的とも言える状況の中で現れた待望のフリップに書いた願いとは・・・

大切なものが何なのか気付くまで遠回りしてしまったけれども、
ようやく本当の幸せってものを掴むことができたと思いたいですね。