思い出の品に宿る気持ちを貴方に 『いろは坂、上がってすぐ。』 1巻

とある商店街に居を構える質屋にて一人暮らしをしつつ店主を兼任する主人公・雫。
実は人に言えない特別な能力を持っていて・・・

可愛いキャラとほんわかしたストーリーの中において、
時折光る人間描写で泣かせてくれたりもして、
アニメ化もされたはなまる幼稚園の勇人氏が、
同誌で新たに連載開始させた本作。
単行本が同日発売されたシスプラスと比較すると、
はなまる幼稚園を祖としてドタバタ描写を強化したのがシスプラス、
人間描写を強化したのが本作と言った感じですね。
どちらも正統進化を遂げていたりはするのですが、
どちらかと言えばこっちの方が好きかも。
昔ながらの雰囲気漂う商店街とか、
特別な能力で人と人、人と物との心を繋げ合わせるとか、
何かとツボる要素が満載なんですよ。
そういうエピソードが中心でも重さは感じさせないし、
逆に何だか心地よい気分にさせてくれる本作は、
癒し系のジャンルに新たな一ページとして名を連ねるに相応しいです。
なお、はなまる幼稚園の主人公だった土田がゲスト登場して、
最終回後の後日談が描かれるエピソードもあったりするので、
読んでいた方にはニヤリとさせられること請け合いです。

土田が相変わらずヘタレだったり山本先生との関係も変わらずで、
こういう意外な形でその後を見ることができて安心しました。


物の価値とは目に見えないところに真価あり。
今まで古物商とか骨董品屋とか、
そういう店で働いたり舞台にした作品ってものはありましたが、
本作の場合、それが質屋ってところが大きな特徴。
一時的にお金が欲しいから。
売るのではないにしても手元に置いておくのは辛いから。
客側としてもやむを得ない事情があったりで、
品物を完全に手放すのではなくて、
どこかしら未練があったりする背景が強調されてるんですよ。
これがそのまま買い取り業者だったらここまで感情移入もできなかったかも。
それに加えて雫さんが持っている能力もあって、
毎回いい話すぎてたまりませんわ。

物の「声」を聞き、相手に伝えることのできる能力。
対象が人ではなくて「物」であることが大きいです。
日本には付喪神って考えがあるように、
長く使われてきた物には心が宿るという信仰がありますが、
例え短い間だけであろうとも人の想いが込められていれば、
物も自ずとそれに応えるようになってくれる。
そういう意味で考えれば人も物も似たようなものなんですね。


しんみりするストーリーに反してアグレッシヴな雫さん。
両親と兄を事故で失っているって重い背景があるにも係わらず、
普段はそれを微塵も感じさせないようなキャラをしてるんですよ。
はなまる幼稚園で言うなら見た目は小梅なのに中身は杏のような感じで。

開幕から帰宅後両親の遺品に笑顔で挨拶してたりして、
とんでもない程の心の強さと度量の深さを見せ付けてくれます。
だからこそ色んな客に対しても懐の深い接し方ができたりするのかな。
と、心根は本当に強いんだけれども、
普段は強いと言うよりもむしろ豪気すぎてヤバい。
場所が銭湯で相手が気心知れた幼馴染だからとは言え、
マッパで世間話とか半端じゃねぇ・・・

月姉ってお色気担当が居るから基本色気の欠片も無いってっても、
年頃の女の子として色々とアレなのがむしろ可愛いじゃないかこんちくしょう。
花見の席で未成年なのにちゃっかりとビール飲もうとしたりもしてるし。
しかしこれが虚勢を張っているだけだとすると・・・
幸せな家族の構図を見て悲観にくれている様子とかあったりね。
本心が露呈したときに今のキャラを保持できるのか。
それが気になるところです。