年末年始の大戦争 『デンキ街の本屋さん』 2巻

デンキ街の本屋さん 2 (MFコミックス フラッパーシリーズ)

デンキ街の本屋さん 2 (MFコミックス フラッパーシリーズ)

日本が世界に誇る電気街に居を構えるコミック専門店「うまのほね」。
仕事の激務も人間模様も今日も変わらず大わらわで・・・
特定の業界で働く人の姿を描く業界ものの中でも、
とらのあなをモチーフとした専門書店を題材として、
一般的な書店には無い修羅場と充足感を浮き彫りにしたことで話題の本作。
待望の2巻目となる今回も凄まじいまでの激務っぷりは相変わらずです。
同じ系列でも地方都市にもなってくるとかなり形は変わるだろうし、
やっぱりこの独特の空気を出せるのは電気街ならではなのですよ。
忙殺間違いなしなのに辞めるなんて話は出てこないし、
同好の士だからこそ客と気持ちが通じ合い、
満足してもらったときの達成感が半端じゃないほどひしひしと伝わってくる。

自発的に働きたいとは絶対に思わないんだけれども、
見ていて実に活き活きして楽しそうな職場ですよね。
普段何気なく巡回して買い物をしている専門書店ですが、
こうして見ると店員の人間味も感じられて、
好きだからこそやっていけてるって一体感が味わえますよ。
恋愛事情も色々と面白いことになってますし、
あらゆる点からも知らない一面がもっと見えてきそうで楽しみです。


書店にとって年末年始とは恐怖の一夜。
一年を締め括る最後の大イベントと言えば何と言ってもコミケ三日目。
かつては冬は二日しかなかったことが普通だったり、
クリスマス合わせで開催されたりしたこともありましたが、
開催日が年末最後の三日間であることが通例となっている現在。
買い逃した新刊確保と正月の暇潰しともなれば、
「四日目」と称した買い物こそ正月の恒例行事ですから、
店員にとっては年末進行なんてレベルじゃありません。

自分は正月休んで2日から買い物に行くタチだったりするけれども、
それでも普段の数倍の混雑っぷりだったりするから、
元日の凄まじさなんて想像しただけで寒気がしてきますね。

客としてでもそうなんだから、店員側から見たら・・・
リアルであの感覚を思い出せるなんて本作ならではですよ。
専門店ならではのリアルさと凄まじさは勿論それだけではありません。
話題作の最新刊発売には深夜販売で途切れることの無い客の対応。
造形美と安定性、そして物理法則の限界に挑んでいる平積みタワー。

世間的に見れば完全に異世界のような光景なんだろうけども、
我々のような人間にとっては日常の一部すぎて秋葉原疑似体験なんてレベルじゃない。
ついついふらっと行きたくなって店員たちの匠の技に酔いしれたくなりますわ。
見て買って終わりでは無い分、店員側の目から見たらメタな話ばっかりで、
色々と洒落になってないんだろうなぁ・・・


特殊な職場環境だからこそ育まれる人間関係。
ただの職業ものとしてだけではなく、
それぞれの恋愛事情から見ても楽しいのが本作。
深夜販売の疲労で寝てしまった腐ガールの寝込みを襲うでもなく見守るソムリエ、
逆にソムリエへ対してバレンタインのチョコを渡しそびれる腐ガール、

二人きりの初詣でもう一つの願いを胸にしまう先生。

全員が奥手すぎて好意を表向きにできないのが非情にもどかしいのですよ。
口にせず隠してこそが花の日本人的美徳だなぁ。
しかしそれがたまらない。
勿論クリスマスの日に二次元嫁を彼女として紹介するような、
いかにもな展開もあったりするあたりがただのラブコメではないですね。
恋愛方面以外でも様々な関係性や繋がりが見える描写も多く、
ヒューマンドラマとしても魅力的なのです。
海雄がうまのほねで働くきっかけとなったエピソードでは
店員の対応一つで一人の人間を一歩前進させる影響力を見せてますし。
今回自分の中で株が上がったのが基本いじりキャラのカントクで、
全体的に他人を気遣う心配りが随所に見られます。

いじってても見るところは見ててケアも行き届いてるし、
普通に店長として格好よく見えてきた・・・