いつかきっと、また巡り会える 『彗星★少年団』

彗星★少年団 (ぶんか社コミックス)

彗星★少年団 (ぶんか社コミックス)

母親の病気治療のために東京から田舎町へと引っ越してきた少女・るい。
何も無いと思っていた生活は、友との出会いで色濃く彩られてゆき・・・

大人になるとともに忘れゆく幼き頃の思い出。
それぞれの道を進むにつれて離れてゆく人の心と友情。
東京とかの便利な暮らしに慣れてしまうと、
ついつい疎かになってしまう実体が掴めない何か。
そんな大切なのにいつの間にかどこかへ置いてきてしまったものを、
ノスタルジックな雰囲気と共に思い出させてくれる一作です。
自分の小学校時代の思い出も今となっては遠い記憶の底へと沈んでいたものですが、
確かに少なからず駆け回って遊んでたこともありました。
大事件と言うほどではないにせよ、日々の全てがイベントの連続で、
この頃の思い出が将来にどれだけ重要な役割を果たしているのか、
改めて思い起こさせてくれますね。
子供が育つには、物の有る無しは関係ないんだなと。
最初の頃は何気ない日常が描かれているのが、
話の中盤から天体観測の話が絡んでくるようになって、
終盤で本作タイトルの持つ意味が明らかになると、
途端にこれまでの全てがかけがえの無い大切なものとして輝きだすんですよ。

例え離れ離れになることがあったとしても、
彗星のようにいつかきっと会える日がやって来る。
一点の曇り無き友情がひたすらに眩しかったです。
自分にもこんな親友たちがいたら、もっと違った人生を歩んでたのかな。


経験が無くても、どこかがきっと懐かしい。
こういう田舎町を舞台にしたノスタルジックな雰囲気漂う作品は、
生まれも育ちも東京な人でさえも懐かしく感じさせてしまうかだと思うんだ。
ええ、見事に懐かしさに心を打たれまくりですよ。
やっぱり少なからず経験があったりすることが見付かると、
当時の思い出が一気にフラッシュバックしてくるんですよね。
脳内では「少年時代」とか「secret base 〜君がくれたもの〜」が、
エンドレスリピートされて止まりません。
そして脳内BGMとの相乗効果で何気ない一幕だけで泣けてきて・・・
とにかく情景で思いっきり魅せてくれます。

本作のタイトルが示すからというわけでもありませんが、
皆で何かを見に行くシーンに夜が描かれることが多くて、
目的のものを一緒に見る視点が後ろからってところが大きい。
田んぼの蛍にしても、木に登って見る花火にしても、
夢中で見入っている背中から描くことで、
あたかも自分自身までもがその場に居るように思えてくるんですよ。

作中では最初から最後までおよそ一年半の期間があるのですが、
その中でも夏が最も印象に残りますね。
田舎のノスタルジックさと夏は最強の組み合わせですよ。
子供たちにとっては長い夏休みもありますから、
思い出も多いし、他の季節よりも特別なところがあるのかな。


離れてたって、ずっと友達だよ。
ノスタルジックな雰囲気と共に描かれる少年少女たちの友情。
揉め事を起こすまいと気遣いながらも、友達を傷付けられたら決して許さない。
くにおみたいな友達がいたら、ずっと大切にしたいって思いますよ。

一生ものの友達が居るってことは、
それだけで他の何にも換えられない宝物なんですよ。
るいも引っ越してきたばかりの頃は何も無い町だと思ってたし、
東京に帰りたい感を全身に漂わせてたのに、
気付けば皆と一緒に居る事が当たり前のようになっていて・・・
確かに何も無いかもしれないけれども、強固な絆で結ばれた関係がある。

暮らしの豊かさと人の繋がりって両立し得ないものなんでしょうかね。
都市部になればなるほど人間関係が希薄なものに思えたりしますし。
わずか一年半の期間でも、子供にとっての一年は大人の十年以上にも相当するもの。
だからこそ東京に戻ることになったるいが見せた涙と、
「さよなら」ではなくて「またな」と言った別れ際の言葉が心に響きます。

恐らく10年後くらいと思われる最終回で確かに果たされている再会の約束。
彼らは例え周期は長くとも、必ず再び戻ってくる彗星そのものです。
距離じゃないんです。
本当に繋がっていればどれだけ離れていても通じ合えるものなんです。
それこそ何億年ともなる壮大な彗星の周期と相まって、
友情と絆によって結ばれ巡る果てしなき世界を見せてもらいました。