秋葉原が好き! 『トランジスタティーセット〜電気街路図〜』 5巻

お祭り騒ぎのように賑やかだった夏休みもいよいよ終わりを告げる。
そして新学期を迎えるにあたり、重要な選択を迫られることになる・・・
戦後の闇市から発展して文字通りの電気街だった頃の秋葉原
急速に萌え文化とカジュアル化が浸透して様変わりした現在の秋葉原
両方とも受け入れ、共存しているからこそ秋葉原と言う街の魅力がある。
物の見方も視点を変えれば普段見えないものが見えてくる、
秋葉原の様々な魅力に気付かせてくれた本作もついに今回で完結。

夏休み終了目前の恒例行事、宿題に追われる阿鼻叫喚の地獄絵図もあれば、
初期の頃から裏で動いていたみどりの身の上に関する揉め事も一つの決着を見たり、
すず自身がこれからをどうするか、どうしたいかで思い悩んだり。
秋葉原と言う街自体の将来と、そこに住む一人の将来。
規模は違うにせよ、未来のあるべき姿について考えさせられるのは同じこと。
コメディ展開も多い中、クライマックスならではのシリアスな空気も多々あり、
まさに最後を飾るに相応しい今回でした。

改めて秋葉原と言う街を好きにさせてくれた本作にありがとう。
最近では一つのシンボルだったラジオ会館もついに解体が始まったりと、
常に現在進行形で様変わりして往くこの街はこれからどんな姿になってゆくのかな。


新しきを取り入れるのみが地域活性化に非ず。
前半パートではみどりの父親と無線商店街の意地の張り合いや、
みどり自身のこれからに関するエピソードが中心。

時代に取り残されて廃れゆくのも一つの道ならば、
それを如何に生かすかもまた一つの選択。
これまでも古い秋葉原を象徴する要素として、
萌え系作品と思わせながらも爺さんキャラの数が多かったりしましたが、
爺さんたちの本領を思いっきり発揮しまくってました。

完全に隠居してたのかと思いきや、珍しく本気になるとすごかったんですね。
さすが戦後の焼け野原から闇市を経て世界屈指の電気街に至るまでを生きてきた世代は違う。
意地の張り合いから一大イベントとして祭りを立ち上げてしまうあたりも、
いかにもな神田っ子気質が十分伝わってくるってものです。
基本祭りって気分が素晴らしく高揚するものですしね。
今風に女子高生メイド接客を織り交ぜた電子工作教室。
ラジオセンターあたりでもっとスペースがあれば、
実際に開催して盛り上がれるかもしれませんね。
活用法次第では古きものもこんな風に最新のものに勝ってしまうものなのです。
確かに秋葉原って街自体、特にヨドバシができて以降の発展目ざましく、
昔の面影も失われつつあるとは言え、
変わらないものがあって、それが残されているからこその秋葉原なのかなと。
例えばご当地グルメのように、地域をアピールする手段次第で、
いくらでも戦い抜けるものなのですよ。
しかし前回からの仕込みで誘導的にエリザを取り込んでしまうみどりは侮りがたし。

最終的に『悪女』の称号ゲットしてますしね。
とりあえず一皿で酔っ払えるラム酒ケーキは食ってみたいわ。


二足わらじを取るか、それともいずれか一方に専念するか。
後半パートはすず自身のこれからに関する話となって、
一気にまとめにかかってます。
約3年くらいの連載期間の中で、作中の時系列は1ヶ月半程度。
実はずっと夏休みだったんですね。
そりゃ確かに現役女子高生のすずがずっと店にいるわけだわ。
しかし新学期となってしまうと話は別。
当然学校に行かなければならないし、その間店は開けられない。
学生の身である時点で二足わらじは無理があるのがわかりきってる中、
仕事を辞めてきた親父が登場して・・・

見た目に反して実はかなりのやり手だった親父ですが、
今までのただ何かをするでもなく店番をしていたすずと違って、
『仕事』ってものはこういうことなのかと。
エリザからも手痛い指摘を受けていたりするけど、
今までやってきていたことってお遊びに過ぎなかったのかな・・・

本気で自営業を続けようとするのであれば、
それ相応の覚悟がなければならない。
何となくで仕事をしている身にもかなり痛いものがありました。
若さゆえのどっちつかずではあるけれど、
まだ選択肢が存在しているのもまた若さあればこそ。

すずは一歩を踏み出したに過ぎません。
これからもっと世の厳しさを知ることになるでしょう。
若者よ大いに悩め、そして決めた道はひたすらに貫き通せ。
基本コメディ作品だったけど、色々と気の持ちようを考えさせられるラストでした。