最弱勇者と最強魔王の冒険譚 『セカイ魔王』 1巻

セカイ魔王 (1) (まんがタイムKRコミックス)

セカイ魔王 (1) (まんがタイムKRコミックス)

勇者の証を持ちながらも一般人以下の戦闘力しかない最弱勇者アルシェ。
そんな彼と行動を共にする妖精マオは最強魔王の分身で・・・
勇者が最後に魔王を討伐してから300年後の世界を舞台とした、
王道に見えて異色のファンタジー冒険ものとなる本作。
ニートが就職して社会復帰するまでを描いた『空の下屋根の中』で
これまでにない衝撃を与えてくれた双見酔氏の新作ともなれば黙っちゃいられません。
勇者と魔王(の分身)が一緒に旅をしていることもそうですが、
平和になった後の世界についての描写がなかなかに生々しいものがあって、
斬新な切り口は期待を裏切りませんでした。

しかもゆるい展開で進んで行くかと思いきや、
一転してシリアスモード全開で意表を突かれるラスト。
世界は一体どうなってしまうのか、
勇者と魔王の存在とは何なのか、
そして二人の旅の行き着く先と結論はどうなってしまうのか。
今後の衝撃に期待を隠せません。
勇者と魔王って関係を描いたものとしては、
最近では『まおゆう魔王勇者』とかが知られているところではありますが、
それとはまた異なった形での勇者と魔王の因果関係がここにあります。


平和ボケとはかくあるものか。
一言で本作における世界の雰囲気を表すと『平和ボケ』。
魔王を倒して世界を救うってのはRPGの常套句だけど、
平和になった後の世界がどんな風になったかを描かれているものは少なく、
中には未来を描いた続編があったりするにせよ、
大抵は直近の情勢が示される程度のものが多いもの。
本作では300年後と言うこともあり、
一見するとファンタジー感さえも薄れているある意味現実感さえ漂うものがあったり。

『伝説の勇者』なんて語られることが多い勇者も、
既に概念に近いものになっていて、観光資源としての呼び込み文句になっているのが・・・

確かに現実でも歴史に名を残すような著名人の母屋とか、
資料館として開放されているようなところもありますが、
ファンタジー世界でそれをやってしまうと何なんだろうこの喪失感は。
伝説の聖剣を手に入れたかと思いきやあっさりと折れちゃうし、
お決まりの魔法だってロストテクノロジー同然だし、
どんな世界であろうとも、時間の流れと共に風化してしまう事実ってあるんだなぁ。

前作同様、相変わらず超現実主義な描写が半端ないですわ。


史上最も勇者らしくない勇者と魔王らしくない魔王現る!?
『一応』勇者の証を持っているくせに、実力は全く不相応。
最弱モンスターにさえ負けて、勝ったとしても全力で死闘を演じるほど。
当然魔法も使えなくて若干後ろ向き。
勇者である自覚よりも観光優先にしてしまうミーハーぶり。

一般人以下と言われてしまうほど低スペック極まりない勇者ですが、
時代の流れは伝承と共に能力さえも風化させてしまったのか、
それとも今の世の中に最も適合した能力がこれなのか。
いずれにせよ実に超現実的ですね。
勇者だから何でもできる万能タイプなんて誰が決めた!
中には自身がそうであることを否定するのだっていてもいいじゃないか。
RPGの主人公とかあっさりと受け入れすぎなんですよ。
そんな最弱勇者が己の弱さを痛感し、
少しでも自主トレしたりしてみる姿にくるものがあるんですよ。

未だまともに魔物も倒せないくらいに弱いままだけど、
確かに成長している部分もあるんだなって実感できますからね。
こうして少しずつ自覚していく人間臭さには意外と惹かれます。
一方の魔王も基本はゆるいノリ。
見た目こそ年頃の少女でも能力は確かなもの。
妖精の姿をした分身でさえ、見た目によらず肉弾戦最強ですからね。

平和に暮らしたい願望を持ちつつ、討伐されることを恐れて勇者を辿るその目には、
今の世界はどんな風に写ってるんでしょうね。
見た目は可愛いんだから、普通に人に混じって暮らしたいと思っているのかもしれないし。
ええ、可愛いです。
特にカラーページでのフリフリの服を着た姿と言ったらもう・・・