そうだ、東北、住もう 『遠野モノがたり』

遠野モノがたり (バンブーコミックス)

遠野モノがたり (バンブーコミックス)

東京に上京してから10年、イラストレーターで生計を立てていたなのか。
三十路となったのを機に心機一転、岩手県遠野市に住まいを移したが・・・

中央モノローグ線から1年半、舞台を遥か500km離れた地に移した、
正統なる続編がついに登場です。
本作の主人公であるなのかと同様に、
作者自身が本当に中野から遠野に引っ越した経緯があるだけに、
半分実話な地元語りのリアリティは前作同様何ら変わりありません。
民話の世界さながらな光景もあれば、現代生活そのものの光景もある。

どこに行っても、やはり『地元』って意識があると色々と違って見えてきますね。
内陸のために致命的な被害を被ってはいないものの、
沿岸地域である釜石市宮古市と隣接しているだけあって、
現在は震災対応で何かと大変な時期かもしれませんが、
日常と違った『何か』がありそうなこの街に一度は訪れてみたいものです。


あえて代名詞と思われるほどのイメージを払拭するも地元愛か。
遠野市と聞いてイメージするものを問うた場合、
やはり一番多く返ってきそうな回答と言えば河童です。
中には早池峰山とか答える人もいるかもしれませんけどね。
(個人的にはかつて超偉人伝説に出てきた阿部老人が思い浮かぶけど)

が、それに纏わるエピソードは全くと言っていいほど存在しません。
代わりに、主人公の一人として描かれているのが座敷童子
どちらかと言うと、緑風荘が存在していた二戸市の方が、
印象として強いかなと思われる中、あえて描くことで、
『何か』がありそうなこの街での生活に不思議な魅力を与えてくれてます。
座敷童子と言っても、子供っぽさは微塵もなくて、
全体的にやさぐれてるのがある意味リアルだなぁ。

永遠の子供なんてピーターパンじゃあるまいし、
何百年も生きてれば心くらいは達観したものになりますて。
世の中を斜め上に見つつも、住み始めたなのかを気にかける姿は、
姿形は見えないながらも、確かに同居している光景でした。
そして別れのときには・・・

しんみりさせながらもしっかりとオチを付けてくれるのがいいですね。
結局この座敷童子、すっかりとツンデレになっちゃってまぁ。


同じ街でも視点を多方面に展開することによて、違ったものが見えてくる。
本作も前作同様、特定の主人公が一人いると言うものではなく、
東京から新たに引っ越してきた人もいる、
妖怪もいる、Uターンしてきた人もいる、
高校卒業を境にこの街に留まるか外に出るかで悩む人もいる。
全員立場が違うから、それぞれにとっての遠野像ってものがあって、
単純な新天地での生活を始めて受けたカルチャーショックだけに留まっていません。
この方式は前作でも同様に用いられていたことだけれども、
主要人物が8人から4人になったことで、
個々のエピソードが非常に色濃いものになってます。
やっぱ住んでみないとその街の本当の姿って見えてこないものだなぁ。

視点は異なっても、全員が確かな地元愛の精神を持っているので、
いいところも悪いところも含めてちょっと住んでみたいと思ってしまいますね。
作中でなのかは仕事の都合で再び東京へと戻ってしまうけれど、
例え二年弱の短い期間でも、地元であると誇れる街のようです。
(作者自身は今も遠野在住のようですが)