さらば梅壺、宮中の日々 『暴れん坊少納言』 7巻

暴れん坊少納言 7 (ガムコミックスプラス)

暴れん坊少納言 7 (ガムコミックスプラス)

和歌集や物語の書き物が多い平安時代の中においても、
思ったことをストレートに綴った随筆として当時から異彩を放っていた枕草子
その枕草子の筆者である清少納言ツンデレだったらというコンセプトから始まった本作ですが、
集中読み切りから本連載に至った経緯を経て7巻目となる今回、
ついに約3年半の間に渡る本作も完結となりました。
当初1巻を読んだその場で引き込まれ、ずっと推し続けていた作品なだけに、
非常に感慨深いものがあります。
最初から最後まで何が起こるのかわからない騒動続きで、
解決に至るまでの意外な発想や更なる騒動を呼ぶような行動の連続でしたが、
それでも思わず唖然としてしまうくらいのラストの急展開にも驚きです。
桜に始まり桜に終わる演出もまた風流であり、
一番最初の『香炉峰の雪』の話がここでまた出てくるとは思いませんでした。
やっぱ日本古来から桜ってのはある種特別な花だったんですね。
そんな桜の舞う中で交わされる別れは、
本当に終わってしまうんだと実感することもあってこみ上げてくるものがあるなぁ。

巻末には史実に沿った本作の背景を中心とした年表も収録されているため、
本編とはまた違った当時の出来事に思いを馳せてみるのもいいかもしれませんね。


最後に登場した新キャラは、見た目通りのラスボス臭満点。
今から千年以上前の時代にも権力に執着する人間ってのはいるもので、
国母の詮子は本当にいかにもな感じのキャラをしてますね。
間柄も今まで何度となく自身がのし上がるために画策してきた道長の姉ってんですから
そりゃもう悪役オーラは全開です。
天皇の実母でもあるわけだから、道長の見た目も考えると素顔は相当キてたのかも?
史実では962年生まれなのでだいたい40近くですか。
若作りして厚化粧がどぎつくなるくらいの歳ってところでしょうかね。
感情が昂ぶると厚化粧にヒビが入ってしまったりとか、どんだけ素顔ババァなんですか。


ほんの一瞬の思い込みと勘違いは、最大級の危機を呼び起こす引き金となり・・・
毎回のように危機とトラブルばかりの展開続きだったものの、
今回巻き起こる最後の大事件はこれまでにないほどの重大なものでした。
しかもよりにもよってそれを起こしたのがヘタレナルシストの伊周だってんですから
世の中何が起こるかわかったものではありません。
どうやら史実でもこの事件は発生していたようですが、
早い話が天皇陛下の暗殺未遂であり、国家反逆罪とも言えるほどの重罪。
よくその場で斬首とかにならなかったものです。
しかしこの騒動でもって各人の人間の器ってものが計り知れますね。
起こしてしまった事は重罪だけれども、最後は腹を決めて出頭した伊周も立派なものです。

逆に事件を利用して宮中を手中に収めようとする詮子&道長の悪党っぷりときたらもう。
結果としてこういう連中が台頭して摂関政治の最盛期を迎えることになるわけだから世知辛いなぁ・・・
同じくこの事件で一大決意をするのが定子と彰子の二人。
前回のラストに開催された舞の舞台を見ながら定子が彰子に言った
『一生のお願い』ってのはそういうことだったのかと。
事件が起こっても起こらなくても既に前から覚悟を決めていた定子。
願いを聞き入れて当初のワガママお嬢様キャラから大きく成長した彰子。
当初のいざこざや、これまでの梅壺と藤壺の対立関係を考えると感慨深いものがあります。


大事件によって大きく変化することとなった宮中。
主従関係も恋愛関係も一つの終わりと新たな始まりを迎えることとなって、
嗚呼終わってしまうんだなと改めてそう思います。
そりゃ少納言でなくても泣くってものです。

作中には何組かの恋愛関係が成立していたけれど、
その中の一つ、紫式部と宣孝の関係もなかなか発展しない関係だっただけに、
互いの気持ちを既に隠すことなく打ち明け、
想い人の帰りを待つことを決心した紫のいじらしさには泣けてきますね。

暴走タイプの主人公だった少納言を色々な意味で正反対のキャラであり、
どちらかと言うとツッコミ役であり、割と冷静なキャラだったのに
感情を爆発させて宣孝と離れたくないと叫ぶくらいですから。
紫も宣孝へ対する恋愛感情を持つようになってから随分と変わりました。
男としては帰りを待ってくれている人がいるってのはある意味役得です。
そして主人公サイドの少納言と則光。
こっちはこっちでツンデレラブコメ展開に終始していたわけれけれども、
作中の時系列で言うなれば出会ってから実に6年、
ついに則光が少納言に告白する時がやってきました。

実に長かった。
筋肉馬鹿の朴念仁が告げたストレートなその想い。
シンプルだけどすごくらしい告白ですし、非常によく伝わりました。
最後の結末もまた少納言らしい決断で、この二人はずっとこんな関係なんだろうなーと。
しかし最後の最後にツンデレっぽさを押し出してきたあたりは見事です。

『この少女、いとツンデレなり』で始まった最初を思い出します。