2012年度漫画マイベスト10〜新作編〜

2007年から続けてきた個人的年間ベストの6年目。
毎年のことながらその年に単行本が初リリースされたものに限定して、
新作編と銘打って今年も特に気に入った作品を、
まとめてピックアップしてみようと思います。
ベスト10とは言ってもそう簡単に絞りきれるものでもないため、
ランク外でも推奨したいものもいつも通りでやろうかと。
なお、今回に限ったことではありませんが、
読む作品が相当に偏ってる超個人的な代物なので、
そこらで見かけるこのマンガがすごい!とかと比べると、
選出内容が遥かに逸脱しているため一般的とは言い難いのであしからず。
百人が百人お薦めだなんて極めて稀な話なんだぜ。


ということで、まずはランクとは別にピックアップしておきたい注目株から。

彗星★少年団 (ぶんか社コミックス)

彗星★少年団 (ぶんか社コミックス)

引っ越してきたばかりで東京が恋しいと思う少女が出会った仲間たち。
昔ながらののどかな風景と、それを際立たせる夏の空。
生活の便利さで昭和時代のどこかに置き忘れてきてしまったような、
でも何を忘れたのかさえわからないノスタルジックな気持ちにさせてくれる内容で、
確かに遊んだり仕事をするには東京は便利だけれども、
暮らすならこういうところがいいなと思ってしまいます。
BGMに少年時代やsecret baseがすごく似合う雰囲気で、
こういう情景を忘れてしまった大人に、
知らずに育ってしまった子供と、
共に故郷ってものの感覚を共有できるのではないでしょうか。
いつかの夜に皆で一緒に見た彗星のように、
離れてもいつかきっとまた会える。
少年少女たちの固く結ばれた絆に思わず涙な一作です。

きものなでしこ 1 (IDコミックス 百合姫コミックス)

きものなでしこ 1 (IDコミックス 百合姫コミックス)

どこかおかしな留学生たちと繰り広げるゆるトーク系百合4コマ。
アニメ化も決定したきんいろモザイクと似ているところはあれども、
どちらかと言うとこっちの方が好きだったりするのです。
確かに設定は似通ってるところも多いし二番煎じなどと思われるかもしれない。
でも同じ題材で違う内容の作品なんてスポーツものではよくあることだし、
本作だって例外ではないのですよ。
掲載誌が百合姫だけど百合描写はソフトだし、
そっち方面の入門としても良好なのです。
国際色も豊かなのでちょっと変わった日常ものとして見ても良し。
ポストゆるゆりになり得るスペックを秘めてると信じて止みません。

一見すると学校の中で自給自足の生活をしている日常系部活もの。
しかして実は学校と言う名の城に篭城するしかない、
非日常の極みなゾンビものだったりするという罠。
極めて危機的な状況の中でも普段どおりを崩さず、
あくまで人間として強くあろうとする少女たち。
何故こうなったかは未だ不明なところもミステリアスで、
抗えども何かが変わるわけでもない無常感を漂わせる中、
世界は一体どこへ向かおうとしているのか、
待ち受けるのは救いか絶望か、
今後の展開がどうなるのか非常に気になる注目株です。

  • 放課後アトリエといろ

放課後アトリエといろ (1) (角川コミックス)

放課後アトリエといろ (1) (角川コミックス)

正確には初出は2011年だけど年末なので特別に。
一言で言ってしまえば美術部を舞台とした部活動もの。
現在、角川系でポストらき☆すたとしようとしているのか、
ゲーマーズの宣伝4コマも本作へとチェンジされたので、
見た事があるなんて人も居るかもしれませんね。
4コマものと言えば年1回単行本が出ればいいレベルなところですが、
2012年初出なのに現在3巻まで刊行されている脅威のペースには、
思わず目を見張るものがあるのですよ。
キャラも可愛いので見ていて和みますし、
内容自体も全体的に高水準でまとめられているため、
角川系の次期主力看板となり得るのか否か、
恐らく本年あたりが正念場となるでしょう。

  • そーどあーと☆おんらいん。

2クール続いたアニメ版も終了しましたが、
話に沿ったコミカライズのようで一味違う4コマ仕立てとなったSAO。
基本的な話の流れは本編に沿っていながらも、
随所にコメディ要素やメインキャラと全く違うエピソードが挿入されていたりと、
全体的に完成度が高く、パロディー系コミカライズの一つの理想系とも言えるほど。
素直に笑えるシーンが多かったのも好感度高いですね。
剣士「ああああ」はキモさと同時に笑わせてくれるいいキャラでした。
そしてこれを読むといつの間にか格好いい存在になってしまっている茅場が、
俺TUEEEEの中二病にしか見えなくなることでしょう。


そしてここからが本編のベスト10となります。

ULTRAMAN 1 (ヒーローズコミックス)

ULTRAMAN 1 (ヒーローズコミックス)

今も昔も日本の特撮ヒーローとして揺るぎない立場であるウルトラマン
それの数十年後を舞台とした新たな変身ヒーローものとして誕生した本作。
ハヤタ隊員の息子が主人公だったり、
巨人の姿に変身する代わりにパワードスーツを身に着けて戦ったりと、
相当なアレンジが加えられているのは確かではありますが、
しっかりとスペシウム光線を必殺技として使用したりと、
確かにウルトラマンとしての要素が残ってるんですよね。
最初の敵がベムラーだったりイデとゼットン星人が一緒にいたり、
初代を知る人なら思わずニヤリとさせられる場面もあり。
特にハヤタが息子に自分がウルトラマンだったことを明かすくだりは熱いです。

電波教師 1 (少年サンデーコミックス)

電波教師 1 (少年サンデーコミックス)

自分のやりたいことしかできない引き篭もりニートにして、
物理学にプログラミングにと天才的スペックを誇る主人公が、
名門校の教師として赴任することとなる本作。
何気に自分が年間まとめランキングを書くようになってから、
三大少年誌から選ぶのははじめてなんじゃないでしょうか。
それくらいにインパクトの大きい内容でした。
教育すると言うよりも共に楽しむ仲間に近い感覚は、
金八やスクールウォーズの古きものとも、
型破りな教師像で話題となったGTOとも違う、
新たなスタイルの教師ものとして要注目です。

高校に入れば自然と男にモテるものだと思っていた。
そんなコミュ障の喪女が送るぼっち生活。
全てにおいて勘違いした言動の痛さには、
思わず目を覆いたくなってしまうほどのレベルでありながら、
少なからず共感できてしまうところがあって、
同情ともまた違う思いを持ってしまう不思議な一作。
自分磨きを本気でやれば十二分に通用するスペックを持ってるはずなのに、
一分たりともそれを活かせてないあたりに哀愁を感じますね。
アニメ化も決まったことなのでこれからの要注目株です。

1月のプリュヴィオーズ 1 (愛蔵版コミックス)

1月のプリュヴィオーズ 1 (愛蔵版コミックス)

創作ジャンルの同人誌で食人女子高生探偵シリーズを手掛け、
画力とストーリー構成には一定の評価を得ていた作者が、
満を持して商業進出して送り出された二作。
ほぼ同時期リリースと言う事もあって同時ランク入りとさせていただきました。
本来はもう一作あるのですが、そちらはラノベなので今回の対象外で。
片や正義と言う名の己の信ずる信念と美学を追求し、
片や栄光と奇跡、孤独と残酷な死を約束された運命に翻弄される契約者と、
共に異なるベクトルから展開される人間のエゴと苦悩を描くバトルもので、
若干ダークながらも熱く細かい人間描写には目を見張るものがあります。
今は知名度も全く無い状況ながらも今後が期待される、
光るものを有した作品なのですよ。
興味があれば更にダークだけど同人誌の食人女子高生探偵シリーズも是非。

今日のユイコさん(1) (アフタヌーンKC)

今日のユイコさん(1) (アフタヌーンKC)

釣り目で真面目な性格の風紀委員とか委員長気質なヒロインが、
真面目さ故の面倒臭さを臭わせつつもツンデレする本作。
普段はこれでもかってくらいに規則を守るように発言しながらも、
それを理由に見張ってないとならないとくっついてきたりして、
見事に発言と行動が正反対のツンデレ具合には、
思わずにやけると同時に壁ドンしたくなる気分でいっぱいになります。
何度と無く規則と恋愛の板挟みにあっては、
恋愛の方を選ぶ見事なまでのデレ具合。
深く知れば知るほど普通の恋する乙女なユイコさんに、
読めばハマることは必至です。

Drc2 (1)

Drc2 (1)

昨年末はアニメでもテーマにした作品が放送されたりと、
既に一般的なワードとしても浸透しつつある中二病
それを思春期ならではのありがちな思考であるという考えに留まらずに、
妄想が現実になってしまう極めて他殺の致死性が高い「病気」として、
あらゆる手段で治療を行う医師を描いた本作。
自己流の最強設定や邪気眼のみならず、
ギャンブルでの常勝無敗など症状は多種多様に渡り、
治療に当たるワクチン達もタロットカードの大アルカナを冠した名称で、
頭のてっぺんから尻尾の先まで中二病な要素満載ではあるのですが、
それであるが故のバトル要素や全体的なキャラの黒さには目を見張るものがあります。
特に黒さについては実際に確認して欲しいレベルで、
まともなキャラが存在しないくらい腹に一物持った人ばかりが出てくるので、
一種のブラック系作品としても楽しめる一面を持っています。

ごきチャ (1) (まんがタイムKRコミックス)

ごきチャ (1) (まんがタイムKRコミックス)

曰く、害虫。
曰く、人類の敵。
そんな誰もが嫌悪感を抱く「G」を擬人化してしまった禁断の一作。
元々同人誌で登場したときもセンセーショナルな話題となりましたが、
商業進出までしてしまう影響力は侮れません。
しかし「G」であることを忘れてしまうほどに可愛くて、
仮に世の中に存在するのが全てこの姿だったりしたら、
きっと愛玩される存在になってたのかもしれないと思うと、
作中での酷い扱いには同情したりすることもあるかも?
実装石みたいな虐待を受ける可能性も否定はしないけど・・・
人によってはどんな姿でも「G」は「G」だから
絶対に嫌だって思う人も居るかもしれませんけどね。
と、少し「G」を見る目が変わるかもしれませんよ。

あやかし古書庫と少女の魅宝 第1巻 (IDコミックス REXコミックス)

あやかし古書庫と少女の魅宝 第1巻 (IDコミックス REXコミックス)

一見するとどこかで見たことのあるような絵柄。
しかし作者の名前にはそこにあるべき名前が無い。
と、誰もが最初に見て思うであろう違和感。
そう、本作の作者は水木しげる調の作風であらゆる作品のパロディーを手掛け、
同人誌ではかなり前から活動をされていた方ではあるのですが、
商業作品でもまさかの水木調で描かれると言う大胆さで、
我々の度肝を抜いてくれた本作。
しかして内容は意外なまでにしっかりとした能力バトルものであり、
絵柄とノリの独特さが奇妙な調和をもって描かれています。
萌え系の絵柄と作品が主軸となった昨今では、
このようなタッチの作品は非常に貴重。
逆に今だからこそ際立つ作品であるとも言えますね。
一味違った、昭和の香り漂う世界、一度堪能してみてはいかがでしょうか。

共学高校のゲンジツ 1 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)

共学高校のゲンジツ 1 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)

男子校や女子校など、異性が存在しない学校生活にとって、
ある種の憧れとも言える共学校。
理想に反して現実は全くそのようなものではない、
極めてリアルな内容には、
何となくで過ごして来た我が身を投影して心が痛くなってきます。
終始フラグばかりが溢れているのに悉く打ち砕かれるブレイクぶり。
生活している中でそんなフラグなど気付くようなものではないと、
知らしめてくれると同時に、自分がどれだけブレイクしてきたのかと、
当時を振り返って塞ぎ込みたくなるような気分にさえさせてくれます。
しかして一度二度打ち砕かれたところでくじけぬ不屈の精神で、
アタックを試みようとするフラグ建築士側の甲斐甲斐しさにも注目。
痛さと悶絶具合が見事に噛み合った一作。
本作の作者もまた同人誌では独特の作風と展開で、
一定以上の人気を有しているところではありますが、
それらと変わらぬ雰囲気に引き込まれること必至です。

あの頃、僕達はゲームがこれほどまでに好きだった。
格ゲー黎明期の91年に始まり、全盛期の95年に至るまで、
当時自分もこうだった、プレイしたって話題満載で、
作中の主人公たちや作者自身とも全く同じ79年〜80年世代としては、
全てのネタが直球ストライクで飛び込んでくるため、
懐かしいと思わないわけがない。
本作以前にもエッセイ調作品で描かれていた、
ピコピコ少年およびTURBOでも同様の思い出補正はありましたが、
ホラーとギャグを主軸とする押切氏が、
初となるラブコメ要素を盛り込んだことも大きいです。
ゲームと恋愛の異なる要素をうまく調和させていることもそうですし、
大野さんと日高さんのヒロイン二人は、
それぞれ違った魅力を持っているため、
本当にこういう作品を手掛けるのがはじめてであることに驚くほど。

  • 総括

春先に海外出張することもあって一時期日本を離れていて、
以降自分なりのペースという観念が変わった上に、
身体的に夜遅くまで起きていること自体が厳しくなってきたため、
あまり個別記事を書いて紹介することができなかった一年。
その点については反省すべき点ではありますが、
世の中では自分の事情の裏でも様々な作品がリリースされ、
こうしてまとめてみると同人活動でそれなりの知名度を誇る作家が、
新たに商業参入した作品が多かった年ですね。
有名になっていくことにはどこか悲しく思えるところもありますが、
やはり喜ばしいことですよ。
翌年もこうしてまとまった形でものを書けるかどうかは正直わかりません。
が、自分の為せる範囲で形にしてゆけるものがあれば。
そう思います。