これが水木イズムの正統継承か!? 『あやかし古書庫と少女の魅宝』 1巻

あやかし古書庫と少女の魅宝 第1巻 (IDコミックス REXコミックス)

あやかし古書庫と少女の魅宝 第1巻 (IDコミックス REXコミックス)

自宅兼読書部屋として古本屋を営む主人公・イクオ。
店のどこかに眠ると言われている世界の英知の結晶である魅宝を巡り、
平穏だった日々は戦いの日々へと変わりゆくこととなり・・・

表紙からしてとてつもないインパクトを放っていると言いますか、
まんま水木しげる調の絵柄で人目を引く本作。
作者のドリヤス工場氏はあらゆる作品を水木調の絵柄とノリとするネタで、
向こう10年は変わらないスタンスで同人誌を描かれていたりするのですが、
そんな氏がオリジナル作品を手掛けたらやっぱり水木調だったという罠。
普通、パロ同人を描いてる人であっても、
オリジナルならそれはそれでパロとは違うデザインや絵柄にしたり、
自分のオリジナリティを出そうとするものだと思うんですよ。
そういうものを一切排除した徹底した水木スタイルを貫く姿は、
確かな水木イズムの継承者であり、
今後もこのスタンスを崩さないという覚悟のようなものすら感じられます。
最近ありがちな萌え要素が入り込む余地すら与えず、
ここだけ終戦間もない昭和の空気を醸し出すこと請け合い。
と、絵柄だけの出オチかと思いきや、
話の内容は確かなオリジナリティがありますし、
見た目に騙されたと読んでみると意外な収穫。
昭和っぽい平成もなかなかにバカにできませんね。


水木絵の皮を被ったバトルもの。
こう見えて意外としっかりとした能力バトルだったりして、
侮れない一面がある一方で、
やっぱり水木絵なのでどことなくゆるい雰囲気に溢れていたりと、
相反する自称が組み合わさって何とも言えない独特の空気を生み出しています。

もしも水木しげるが現代風のバトルものを描いたらって想像を、
これ以上ないくらいの忠実さで体現してますよね。
肝心の能力バトルに関しては、
いかにもな中二系の能力あり、妖怪っぽい能力あり、
どちらかと言うと超能力と言えるような能力ありと、
様々なカテゴリーに区分されてバリエーション豊かですし、
逆転に次ぐ逆転による駆け引きなどは普通に見ていて楽しい。

心が読めるから先読みされて攻撃が当たらない相手だとか、
時間跳躍能力で何度失敗しても成功するまで繰り返し挑んでくる相手だとか、
静かにして激しい水面下の争いは目が離せません。

主人公の能力も使用状況が限定される極めて特異なものであると同時に、
相手を撃退するためにいつどのようにして使うかも見所。
一度見た相手の能力をコピーするって如何にもな主人公特権な能力である反面、
コピーできるのは一度きりって制約が加わっただけで、
こんなにも駆け引きの幅が広がることになろうとは思いませんでした。
初回は水木絵のインパクトに圧倒され、
読み返すとこうした能力バトル設定の緻密さに驚かされます。


慣れると味の出てくる世界観。
確かに水木絵ってこともあって、
特に萌え化が進む最近の作品傾向からすると、
敬遠したくなるのはわからないでもありません。
が、一度ハマると読むほどにのめり込めて、
むしろこの作風だからこそいいと思えてくるスルメのような中毒性があります。
あまつさえ、この作中キャラが可愛く見えてきてしまうほど。
わかりやすいツンデレの七星も、
イクオに色目を使って全然気付かれない中神先輩可愛いよ。

七星共々「美人」ってことになってるようなんだけど、
全くそうは見えないとツッコみたくなるのもむしろ予定調和。
これであとはしげるビンタがあれば言うことはなかった。