慈悲無き罪と慈悲無き死 『アポカリプスの砦』 1巻

アポカリプスの砦(1) (ライバルKC)

アポカリプスの砦(1) (ライバルKC)

殺人現場を目撃したばかりに冤罪で投獄されることになった主人公・義明。
自分と全く異なるタイプの不良少年たちに戸惑う中、怪物の襲撃を受け・・・

最近一種のブームになりつつあるのか、作品テーマとして急増中のゾンビもの。
何十年も前から映画等で確立された世界観に新たな一作が登場しました。
ドーン・オブ・ザ・デッド28日後...のような全力疾走するタイプでもなければ、
さんかれありびんぐでっど!のようなラブコメでもなく、
古き良きオーソドックスなタイプが展開される本作。

ゾンビではなくて本作そのものが全力疾走しています。
決して真新しいものがあるわけではないのだけれども、
何よりも話の展開が非常にスピーディーに進行するため、
先が気になるのを待つのがもどかしいタイプにはいいかもしれませんね。
とは言え、最後の最後で本作ならではの独自性も繰り出され、
必要なテンプレを保持しつつもオリジナル性が出てきています。
収容施設がどうなったとか、冤罪はどうなるんだとか、
発生源は何だとか、真相は不明なまま。
むしろこれからが本番となりそうな感じさえ漂い、
全く先の見えない着陸点がどうなっているのかが気になります。


戦うことに躊躇なんてあるわけない。
本作における特徴の一つがメイン拠点の施設故に、
主だったキャラが不良ばかりであること。
全員刑期ありの前科者なだけあって、
戦闘向きなキャラが多いから人間対ゾンビのスタンスを崩すことなく進行してくれます。
よくいる「話せば分かり合える」系のウザいキャラがいないのはいいですね。
ああいう順応性が無いのは真っ先に死ぬのがわかってても、
そこまでがうるさいからなぁ・・・
実生活では害悪の目を向けがちな不良たちがとにかく頼もしい。
と言うか、冤罪の一般人な主人公を除くメイン三人のステータス高すぎです。

真っ先に先陣を切るリーダー格の吉岡、
銃創があったり謎が多いけど一番戦闘力が高くて頼れる寡黙な岩倉、
冷静かつ冷酷な判断を瞬時に下す知能派の山野井。
吉岡なんかは明らかに喧嘩による傷害で投獄されたっぽいけど、
あとの二人が娑婆で何をやらかしたのかが気になりますね。
人の形をした人ならざる者や、まだ意識のある感染者を躊躇無く殺してるあたり、
初の殺人ってわけではなさそうだけど・・・

この三人の素性もそのうち明かされたりするんでしょうかね。


危機的状況を目の当たりにした場合、
時間の概念など皆無にも等しきほどに失われる。
本作に出てくるゾンビの特徴は、
人外の怪力、鈍足、咬まれると感染する、脳を破壊されれば死ぬ。
ごくオーソドックスなタイプで今のところは突出した特長はなし。

そんな中でマンネリさを取り払うべく配慮されているのが展開の早さ。
普通の作品だったら丸一巻、長ければ数巻かけるような話さえ、
あっという間に消化してしまうほど。
例えば屋上や建物とかに篭城する場合。
バリケードで一時的に凌ぐことさえままならず、
一話もせずに交戦・脱出することに。
車で脱出するにしても、大抵この手の作品だと早くても2巻目くらいで、
そこから何処へともなく彷徨うことになるのに、
脱出した目的すら瞬時に終了してしまったり。
ぃゃ、家族の安否を確かめに行くなんて言ったら、
パニックホラー系ではメインの柱ともなる部分で、
何時になったら再会できるのか、果たして無事なのか、
それこそ数巻かけて描かれてもおかしくないところです。
が、本作の場合、そんな展開は不要とでも言わんばかりにばっさり切り捨て。
ええ、確かに家族と再会はします。
脱出してからたったの3ページ後に・・・
しかもしっかりとゾンビ化してるおまけ付き。

散々引き伸ばされた挙句の結末ではないにせよ救いが無さすぎる・・・
街に出たって生存者の一人と遭遇してもいいのに既に生存者ゼロの全滅状態。
さすがに家族の場面については言葉を唖然として言葉を失いましたわ。
ラストに元凶と思しき「王」みたいな存在が出てきてるけど、
これが何者なのかが焦点になってくるのかな。

とか言いつつ、超展開なスピード故に瞬殺される可能性も否めませんがね。