夏は労働の季節 『銀の匙 Silver Spoon』 2巻
銀の匙 Silver Spoon 2 (少年サンデーコミックス)
- 作者: 荒川弘
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2011/12/14
- メディア: コミック
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はじめて迎えた夏休みで御影さんの実家で住み込みバイトをすることになったのだが・・・
作者自身の農業高校時代経験をフル活用し、
全学生9割以上が通う普通科出身には知り得ない実情を、
青春コメディとして昇華させた本作に待望の2巻目が登場です。
巻数に対して早くも累計部数が100万部突破となり、
今年のホットなジャンルの一つに農業が名を連ねるに大いに貢献しています。
青春ものらしく、一人の少年が自分自身を見つめ直してゆく展開が根底にあり、
農業として以外にも、普通に学園ものとしても安定しています。
今回は夏休み編に突入したことで、
学校の外、農家に生まれた少年少女たちの実家での生活も描かれ、
そういう地域で生活するってことはこういうことなんだとまざまざと語られています。
隣の家まで8km、最寄の娯楽施設は100km離れたヨーカドー。
夜道を車で走れば鹿をはね熊をはね。
こんな地域じゃ引き篭もりだのニートだの有り得ませんわ。
強制的に労働力として駆り出されるのは間違いないし、
それが当たり前のこととして小さな頃から根付いているわけですからね。
強いて言うなら地方に強制引き篭もりと言えなくもないですか。
話題性と人気は発行部数が物語ってますし、万人に推奨できる良作ですね。
普通科では経験することのできない経験は盛り沢山。
前回ラストでゴミの山の中から見付けたレンガ造りの石窯。
何気ない一言が発端となり、こっそりピザを作ろうとしたのが、
全校規模の一大イベントとなってしまい・・・
ぁー、これはヤバいわ。
材料も全て校内を駆け巡って皆の協力の下提供されたものだから、
元手がほぼゼロなのに品質には絶対の保障がある。
宅配ものとは全然違う手作りの魅力と楽しさが相まって、
これが美味くないわけがないじゃないか!
今すぐにでもピザを食いたくなってしまって困る。
冷凍とか宅配じゃなくて、専門店で実際に石窯使って焼いたやつを。
ピザに限ったことではないけれど、
作中に出てくる飯がことごとく美味そうなんですよね。
工業校との合同行事で行われたジンギスカン然り、
八軒がはじめて解体した鹿肉を使った焼肉然り。
決して見栄えがするものではないし、
どちらかと言うとただ盛り付けただけの無骨な見てくれも多い。
でも、下手なグルメものより全然美味そうに見えてしまう。
野性味溢れる料理ってものは、見た目じゃなくて状況なんだなぁ。
学校では教えてくれないこと、農家だから教われること。
教科書に載っていることが全て将来役に立つかと言うとそんなことはない。
むしろ、載っていないことの方が必要なことになることの方が多かったりもする。
こういう地域で農業とか営んで生活していると、
学校なんて行かなくてもどうとでもなるように思えてきてしまいます。
元々人間の祖先もこうしたサバイバルから文明を築き上げてきた歴史もありますし。
普通に都会で暮らしていれば既にパック詰めされた肉とかスーパーで手に入るから、
自分でどうにかするって発想自体がありませんからね。
そんなアバウトな農家でも生命に対する考えは非常に現実的でシビア。
唐突に八軒がやることになった鹿の解体なんてわかりやすい例。
現実的に鹿は数が増えすぎて作物に与える被害もかなりのものみたいだけど、
動物園とかのように愛玩的な目で見るか、肉が美味い害獣と捉えるか。
今回は車ではねて既に死んでいる鹿が対象だったけど、
近い将来、八軒にとって避けられない現実が迫って来てますからね。
子豚の見た目の可愛さに『豚丼』と名前を付けてしまったものの、
いずれは屠殺され、食肉加工され、ハムやベーコンとなってしまう運命は避けられず。
その時になって八軒が何を思うか。
自分の手で解体した鹿のように割り切って食べることができるのか。
生命の現実は彼の心に如何な変化をもたらすことになるのか。
気になるのと同時に怖くもありますね。
反面、ベストな答えも過程も多岐に渡る世界に触れ、
少なからず心境の変化が訪れてきていることも事実。
一般家庭出身故に確固たる目標は未だ見出せずとも、
きっかけの一つは掴むことができたのかな。
確固たる目標を持ちすぎて完全に将来の夢が野望になってるタマコさんはやべぇ・・・
見た目もキャラも濃すぎて登場しただけで全てがギャグになってしまう。