その恋は切なくも愛しき涙で語られる 『ディアティア』

ディアティア

ディアティア

誰からの告白も受けずに不器用に断り続けてきた少年・成田。
それが納得いかずに成田がどんな人間かを見極めようと、
少女・桐ヶ谷は接触を試みるのだが・・・
『涙』をキーアイテムとした、極めて正統派にして極めて切ない恋愛物語の降臨です。

登場する誰もが心に秘めたる想いってものがあって、
どれもが切たるものにして純粋なもので、
全員の気持ちが痛いほどにわかるからとにかく読んでいて切ない。

トラウマに恋愛感情に友情にと絡み合う想いの数々は、
歳を取ると共にどこかに忘れてきてしまった感情を呼び起こしてくれます。
ぁー本当にこれくらいの年齢の時に一歩踏み出す勇気があれば・・・
玉砕する結果であったとしても、踏み出した事実は確かな礎になっただろうに。

最初からラブラブ全開だったり、
ギャグも織り交ぜたコメディありの恋愛ものもいいけど、
やっぱこうした切ない物語こそが王道ですね。


相手を傷付けたくない、自分が傷付いても誰かの幸せを願いたい。
互いにそんな想いを言葉に出すこともできずに傷付けてしまっていた不器用さ。
誤解と自己犠牲はいつの時代、どの世代でも重いものです。
まして、それが様々な事柄に未熟で成長する時期である学生時代となればなおのこと。
多感にして不器用な若者たちならではの切なさはとても心苦しいものがあります。

さすがタイトル直訳が涙と共にって言うだけあります。
表紙と帯書きの装丁も涙で所々文字が滲んでいる風になっていて、
如何に『涙』が本作のキーポイントになってるかが表紙からも窺えますよ。
ただ悲しくて流す涙だけではない。
切なくて流す涙、他人を想うがあまりに流す涙、
自分自身何故だかわからないのに自然と流れてしまう涙、
そして嬉し涙。

涙の数だけ強くなれるとどこぞの歌にもありましたが、
実際のところ、それだけの経験を積み重ねてきたことの裏付けにもなるから、
強ち間違ってるとも言えないと、ふとそんなことを考えたりしました。


切なくも愛しき物語の主演は純粋にして不器用な面々。
成田は家庭環境故に自分に依存する母親を見てきたために女性恐怖症であり、
そのために誰からの告白をも受け入れずに断り続ける反面、
心の中では他の誰よりも他人を傷付けることを恐れていたり。
桐ヶ谷さんも最初は友を思うあまりの接触だったのが、
次第に魅かれていっている自分に気が付きながらも、
成田に振られた親友や先輩のことを考えてしまって自分に素直になりきれない。
こんな二人だからとにかく最初から最後まで到達するまで遠回りの連続。
『恥ずかしいから嫌です』
一話目と最終回とで桐ケ谷さんが同じ台詞を言う場面があるのですが、
前者は手を繋ぐ行為そのものに対して言ったものであり、
後者は既に手は繋いでおり、冷えた手をポケットに入れて暖めることに対して言ったものと、
音は同じでも全く意味の異なる後者に到達するまで本当に長かった。

同時に、意味が異なるからこそ確実に二人の想いが繋がった証拠であるのが、
切ない末に辿り着いた微笑ましさに心が温まりますわ。


桐ヶ谷さんの親友である鈴音や部活動の先輩の美佳先輩の存在も大きくて、
成田のことが好きで告白⇒玉砕したと言う共通点を持ってるのが、
更に行く先の見えない迷路に迷い込んだかのような複雑な状況になってゆくわけで。
親友も先輩も大好きだから、後から出てきた自分が自身の気持ちを認めて、
告白を受け入れてしまうと言う抜け駆けをすることができないと、
苦悩する桐ヶ谷さんの姿は本当に切なくも非常に可愛くそして愛しい。
勿論涙を見せずに隠そうとするいじらしさもまた然りです。
また、想いの狭間で悩む桐ヶ谷さんを一喝した鈴音も
自分は駄目だったからこそ親友を立てたい、幸せになってほしい、
そんな真の友情故の怒りがとても輝いています。

好きな相手は一人しかいないのだから、
対象の当人が決めた相手以外は全員結ばれることがない。
それがわかっていながら他人のために怒れるのって素晴らしいことですよ。
むしろ、こういうときにこそ怒ってくれる人物こそが『真友』と呼べるのかもしれません。
単純に桐ヶ谷さん可愛いってのもありますが、
本編の物語あってこその輝きってものがありますよ。


本編が切ない反面、一気にラブコメモードに突入する後日談も見逃せません。
紆余曲折あって付き合うことになった二人が、
不器用な恋愛初心者ならではの初々しさがとにかくこそばゆい。
泣き顔や憂い顔の方が笑顔よりも圧倒的に多い本作だけに、
笑顔に照れ顔満載なこの破壊力は凄まじいものがあります。
まさか最後に『はつきあい』状態になるとは思わなんだ・・・
メアド交換していつキスするんだと茶化された後の夜の初メールが、
『やっぱりキスしたい』
ときたもんですから、それを読んだ桐ヶ谷さんの照れ顔と共に悶死確定です。

描き下ろしのエピソードも微妙な進展具合がまた悶絶状態に追い討ちをかけてくれまして。
最初から最後までずっと成田のことを『成田先輩』と名字で呼んでいた桐ヶ谷さんが、
この一説の一番最後では『秋人先輩』って呼んでるんですよね。

メールの登録名も名字のままだったし、
恐らく本当にはじめて下の名前で呼んだと思われる一幕。
僅かながらも大きな変化は最後の締めとしてまさにとどめの一撃でした。
一しきり切なくなった後のニヤラブ感。
言うなればずっと本編でツンだったのが後日談でデレてきたツンデレな一冊ですねこれは。